外発的価値観から内発的価値観で生きる時代
かつて、価値観は外から与えられるものだった。
生まれた土地、属する共同体、信仰する宗教。それらが「何を大切にすべきか」を教えてくれた。迷うことは少なかった。正解は、既に用意されていたからである。
しかし今、その構造は崩れつつある。
外発的価値観の時代
文化発達の歴史を振り返ると、人類は長い間、集団的な価値観の中で生きてきた。
バレットの意識発達理論によれば、人間の意識は「生存」から「関係」「自尊」を経て、より高次の段階へと発達していく。社会もまた、同様の発達段階を辿る。
農耕社会では、共同体の存続が最優先された。個人の価値観は、集団の価値観に従属していた。「村の掟」「家の教え」「宗教の戒律」——これらが人々の行動を規定し、何が正しく何が間違っているかを示していた。
産業革命以降、社会は「達成」と「成功」を価値の中心に据えるようになった。勤勉に働き、富を築き、社会的地位を獲得すること。それが良い人生の定義となった。
これらはすべて、外から与えられた価値観——外発的価値観である。
外発的価値観の限界
外発的価値観は、ある意味で楽である。自分で考える必要がない。社会が用意した正解に従えばいい。
しかし、そこには根本的な問題がある。
外発的価値観に従って生きるとき、人は常に「評価される側」に立つことになる。社会の基準を満たしているか、他者の期待に応えているか。その不安が、常について回る。
さらに深刻なのは、外発的価値観が自分の本当の価値観と一致しないとき、人は内的な分裂を経験することである。成功を追い求めながら、心のどこかで「これは本当に自分が望んでいることなのか」と問い続ける。その葛藤は、心身の不調として現れることも少なくない。
時代の転換点
今、私たちは時代の転換点にいる。
情報化社会の到来により、私たちは無数の価値観に触れるようになった。かつては自明だった「正解」が、一つの選択肢に過ぎないことを知った。
同時に、外発的価値観に従って生きることの限界も明らかになってきた。物質的な豊かさを手に入れても、心が満たされない人々。社会的な成功を収めても、燃え尽きてしまう人々。
この状況は、危機であると同時に、機会でもある。
外から与えられた価値観に頼れなくなったとき、人は初めて「自分にとって本当に大切なものは何か」を問わざるを得なくなる。それは苦しいプロセスだが、内発的価値観——自分の内側から湧き上がる本当の価値観——に出会う入口でもある。
内発的価値観で生きるということ
内発的価値観で生きるとは、外部の評価基準ではなく、自分の内なる羅針盤に従って生きることである。
それは決して、社会から孤立することを意味しない。むしろ、自分の価値観を明確にすることで、真に共感できる他者と繋がることが可能になる。信念のレベルではなく、価値観のレベルで繋がるとき、そこには本当の対話が生まれる。
マズロー(Maslow, 1943)は、欠乏動機と成長動機を区別した。欠乏動機は「足りないものを埋める」ための動機であり、外発的価値観と結びつきやすい。一方、成長動機は「可能性を実現する」ための動機であり、内発的価値観から生まれる。
ピクサー映画『モンスターズ・インク』では、子どもの悲鳴で発電していた世界が、笑い声で発電する世界に変わったとき、エネルギー効率が何倍にも跳ね上がった。同じことが、人間の動機にも言える。苦労や努力で絞り出すエネルギーよりも、「楽しい」「面白い」から湧き上がるエネルギーの方が、はるかに大きく、持続する。
内発的価値観で生きる人は、他者と比較する必要がない。自分の価値観に従っているかどうかが、唯一の基準だからである。そこには、外発的価値観では得られない静かな確信がある。
結語
外発的価値観から内発的価値観へ。
これは、与えられた正解から、自ら問いを立てることへの移行である。楽な道ではない。しかし、そこにしか本当の自由はない。
あなたが大切にしているものは、誰かに教えられたものだろうか。それとも、あなたの内側から湧き上がってきたものだろうか。
それが、この時代に問われていることである。
参考文献
- Barrett, R. (2014). The values-driven organization: Unleashing human potential for performance and profit. Routledge.
- Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370-396.
- Schwartz, S. H. (2012). An overview of the Schwartz theory of basic values. Online Readings in Psychology and Culture, 2(1).