人の心に眠る貢献心

人の心に眠る貢献心

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人は、なぜ他者のために何かをしようとするのか。

「見返りを期待しているから」「自己満足のため」「社会的な評価を得るため」——そのような説明は、確かに一面の真理を捉えている。

しかし、それだけでは説明できないものがある。純粋な貢献心。見返りを期待せず、ただ他者の幸せを願う心。

それは、私たちの心の奥底に眠っている。


普遍主義という価値観

シュワルツの10の基本価値観の中に、「普遍主義(Universalism)」がある。

これは、すべての人々と自然の福祉に対する理解、感謝、寛容、保護を意味する。自分が直接関わる人々だけでなく、見知らぬ人々、さらには自然環境までを含む、広い範囲の福祉を大切にする価値観である。

興味深いのは、この価値観が文化を超えて普遍的に見られることである。シュワルツの研究は82カ国、30万人以上のデータに基づいているが、どの文化においても、普遍主義という価値観は存在する。

これは、貢献心が人間に本来備わっているものであることを示唆している。


誰もが貢献する潜在能力を持っている

LEGO®SERIOUS PLAY®メソッドの主たる設計者であるロバート・ラスムセンは、この信念を核心に据えている。

「誰もが『良いことをしよう』という意図を持ち、それを実行する潜在能力を持っている」

この信念は、単なる楽観主義ではない。人間の本質に対する深い洞察に基づいている。

クリスティアンセンとラスムセンは著書の中で、組織内のすべての人が議論や成果に貢献できるという考えを育むことがLEGO®SERIOUS PLAY®の根幹だと述べている。レゴを使って手を動かしながら考えることで、普段は論理的な思考によって閉じ込められている想像力と潜在能力が解き放たれる。

つまり、貢献心は「持っている人」と「持っていない人」がいるのではない。誰もが持っている。ただ、それが発揮される環境と、発揮されない環境があるだけなのである。


欠乏動機と成長動機

マズローは、欠乏動機と成長動機を区別した。

欠乏動機は、何かが足りないときに生じる動機である。飢えれば食べ物を求め、不安を感じれば安全を求める。これらの動機は、欠乏が満たされれば消える。

一方、成長動機は、欠乏が満たされた後に現れる動機である。自己実現の欲求、審美欲求、真理への欲求。そして、他者への貢献の欲求。

貢献心は、成長動機に属する。基本的な欲求が満たされたとき、人は自然と「自分だけでなく、他者のために」という思いに至る。

重要なのは、これが「義務」ではなく「欲求」であるということだ。満たすべき義務としての貢献ではなく、満たしたい欲求としての貢献。そこに、本来の貢献心がある。


貢献心が満たされないとき

ここに、一つの逆説がある。

貢献心が強いにもかかわらず、それを発揮できない人は、しばしば攻撃的になる。

アドラーは、人間のつながりの感覚と他者の福祉に貢献しようとする意志が、精神的健康の主要な基準であると述べた。そして、これらの資質が未発達なとき、人は劣等感に苦しむか、優越的な態度で他者を敵対させると指摘している。

アドラーによれば、貢献への欲求不満は三つの形で現れる。

一つ目は「攻撃」である。自分や他者を責め、非難する。二つ目は「優越コンプレックス」である。他者を見下すことで、自分の劣等感を覆い隠そうとする。三つ目は「距離を置くこと」である。引きこもり、無関心を装う。

バレットの意識発達理論でも、同様の現象が指摘されている。ある段階のニーズに「過度に集中」すると、本来は健全なはずの欲求が歪んだ形で現れる。例えば、自尊心のニーズが硬直化すると、人は権力欲の強い自己中心的な存在になり、自分の価値を確認するために他者を「劣った存在」として必要とするようになる。

つまり、攻撃的な人は「貢献心がない」のではない。むしろ「貢献心が強いのに、それを発揮できていない」からこそ攻撃的になるのである。

この逆説的な構造を理解することは、他者を、そして自分自身を理解する上で極めて重要である。


貢献心が目覚めるとき

貢献心は、あるきっかけで目覚める。

それは多くの場合、「自分が満たされた」と感じる瞬間である。物質的な豊かさとは限らない。誰かに理解されたとき、自分の価値を認められたとき、安心できる居場所を見つけたとき。そういった経験が、貢献心を呼び覚ます。

アドラー心理学では、これを「共同体感覚」と呼ぶ。自分がより大きな全体の一部であるという感覚。この感覚を持てたとき、人は自然と「全体のために」という思いに至る。

アドラーの言葉を借りれば、「人間としてのつながりの感覚と、自己を十分に発達させ他者の福祉に貢献しようとする意志が強まるとき、平等の感覚が生まれ、その人の目標は自己超越的で他者に有益なものとなる」。

興味深いことに、貢献することで、さらに満たされるという循環が生まれる。貢献心は、使えば使うほど強くなる。それは枯渇する資源ではなく、湧き出る泉のようなものである。


貢献心を解き放つ場をつくる

私たちがLEGO®SERIOUS PLAY®メソッドを採用しているのは、まさにこの理由からである。

誰もが貢献する潜在能力を持っている。しかし、通常の会議やワークショップでは、その潜在能力が発揮されないことが多い。発言力のある人の意見が支配し、控えめな人は沈黙する。論理的な議論が優先され、直感的な洞察は軽視される。

LEGO®SERIOUS PLAY®は、この構造を変える。

全員が同じ条件でブロックを手にする。手を動かしながら考えることで、言語化されていなかった思考が形になる。一人ひとりが自分の作品を持ち、それについて語る時間が平等に与えられる。

そこでは、普段は眠っている貢献心が自然と目覚める。

「自分の意見なんて大したことがない」と思っていた人が、驚くほど深い洞察を語り出す。「どうせ聞いてもらえない」と諦めていた人が、目を輝かせて自分のアイデアを共有する。

それは、彼らが突然「貢献心を持った」わけではない。もともと持っていた貢献心が、ようやく発揮される場を得たのである。


結語

人の心の奥底には、貢献心が眠っている。

それは、教えられて身につけたものではない。人間として生まれながらに持っているものである。

その貢献心が眠っているのは、何かがブロックしているからである。欠乏感、恐れ、制限的な信念。あるいは、発揮する場がないこと。

貢献心が満たされないとき、人は攻撃的になったり、他者を見下したり、無関心を装ったりする。しかし、それは貢献心がないからではない。貢献心が強いからこそ、その欲求不満が歪んだ形で現れるのである。

だからこそ、貢献心を発揮できる場をつくることが大切になる。

あなたの心にも、貢献心は眠っている。

それを目覚めさせるために必要なのは、まず自分自身を満たすこと。そして、安心して貢献できる場に身を置くことかもしれない。


参考文献

  • Adler, A. (1927). Understanding human nature. New York: Greenberg.
  • Barrett, R. (2014). The values-driven organization: Unleashing human potential for performance and profit. Routledge.
  • Kristiansen, P., & Rasmussen, R. (2014). Building a better business using the LEGO Serious Play method. Wiley.
  • Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370-396.
  • Schwartz, S. H. (2012). An overview of the Schwartz theory of basic values. Online Readings in Psychology and Culture, 2(1).