価値観とチームビルディング

価値観とチームビルディング

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チームビルディングと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

アイスブレイク。チームワークを促進するゲーム。飲み会でのコミュニケーション。

それらは確かにチームビルディングの一部である。しかし、本当の意味でチームが「ビルド」されるのは、もっと深いところで起きる。

価値観の共有。それが、チームビルディングの核心である。


スキルの共有だけでは足りない

優秀な人材を集めれば、優秀なチームができるわけではない。

スキルは、確かに重要である。しかし、スキルだけでチームは機能しない。なぜなら、スキルは「何ができるか」を示すが、「何を目指すか」は示さないからである。

方向性のないスキルは、バラバラに発揮される。各自が自分の得意なことをやっているだけでは、チームとしての成果は生まれない。

チームには、共有された方向性が必要である。その方向性を与えるのが、価値観である。


自己志向と他者志向

価値観には、他者との関係性において大きく二つの方向がある。自己志向と他者志向である。

自己志向の価値観は、意識の世界で自分が中心にある。自分がどう感じるか、どう考えるか、どう行動するか。極端に言えば、自分という存在だけが存在する世界である。

他者志向の価値観は、意識の世界で他者が中心にある。他者がどう感じるか、他者にどう貢献できるか。極端に言えば、自分という存在は存在しない世界である。

興味深いのは、人は往々にして、自分が「当たり前」に持っている価値観とは逆の方向に憧れるということだ。

自己志向を当たり前に持つ人は、他者志向を自然に体現する人を眩しく見る。他者志向を当たり前に持つ人は、自己志向の堂々とした姿に惹かれる。そして、自分の当たり前の価値観を通して、逆方向の人を高く評価する。


補い合うのではなく、撹拌される

他者志向を大切にしたいと思う自己志向の人間と、自己志向を大切にしたいと思う他者志向の人間。この二人が同じチームにいるとき、何が起きるか。

「どちらも大切にできるよね」という単純な相互補完ではない。そこには、化学反応が起きる。

チームは、全員が同じ価値観を持っている必要はない。むしろ、異なる価値観を持つメンバーがいることで、チームは豊かになる。

なぜなら、チームにとっての価値観は、無意識に影響し合い、撹拌され、統合されていくものだからである。パズルのように補い合って完成形になるのではない。波紋の衝突のように、まったく新しい形になっていく。

その完成形は、チームの誰もが知る由もなく、想像し得るものでもない。対話による深い理解があって初めて、形の片鱗を垣間見ることができる。

それこそが、組織アイデンティティである。組織が組織として、唯一無二の存在である証となる。


PIXARに学ぶ価値観の共有

ピクサー・アニメーション・スタジオは、「心温まるストーリーを創る」というスローガンを掲げている。

そこから読み解ける価値観は、慈愛と創造である。Ictus Values®の言葉で言えば、「超越」——自分を超えて、他者や世界全体の幸福に貢献する——と、「開放」——新しいアイデアや経験を求め、自分らしく変化していく——である。

ピクサーの強さは、この価値観がチーム全体に浸透していることにある。

エド・キャットムルが著書『Creativity, Inc.』で語るように、ピクサーでは「ブレイントラスト」と呼ばれる仕組みがある。監督、脚本家、ストーリーヘッドが集まり、率直なフィードバックを交わす。しかし、最終的な決定権は監督にある。アドバイスは強制ではなく、あくまで対話である。

さらに興味深いのは、ストーリーアーティストたちの働き方である。彼らはシーンやシーケンスを任され、自分の頭の中でストーリーを視覚化し、監督に「伝え返す」。物語の一部を託され、そこに自分のビジョンを吹き込む。全員がリーダーシップを持つ構造である。

そして、監督たちは自らのリアルな体験を物語に吹き込んでいく。『ファインディング・ニモ』の監督アンドリュー・スタントンは、息子との公園での経験から過保護な父親の感情を物語に込めた。『リメンバー・ミー』ではメキシコ文化の徹底的なリサーチが行われた。

価値観を共有し、個人の体験を尊重し、対話を重ねる。その結果として、世界中の人々の心を動かす物語が生まれる。


価値観を可視化する

問題は、価値観が普段は見えないことである。

シュワルツが指摘するように、価値観が意識されるのは、葛藤が起きたときに限られる。平穏な日常では、価値観は背景に退き、意識されることがない。

これが、チームにおける価値観の問題を複雑にしている。普段は問題なく働いているチームが、重要な局面で突然崩壊することがある。それは、価値観の違いが表面化したときである。

だからこそ、意図的に価値観を可視化する機会が必要になる。平穏なときにこそ、お互いの価値観を知り、共有できる部分を確認しておく。そして、異なる部分を認め合う。それが、危機に強いチームを作る。


対話の土台としての価値観

価値観を共有するプロセスは、対話そのものでもある。

価値観について語り合うとき、人は普段の役割から解放される。部長も新人も、同じ人間として「何を大切にしているか」を語る。そこには、上下関係も専門性の違いもない。

この経験が、チームに深い信頼をもたらす。お互いの価値観を知っているということは、お互いの「人となり」を知っているということである。それは、スキルや役割を超えた繋がりである。

価値観の対話を経たチームでは、コミュニケーションの質が変わる。表面的なやり取りではなく、本質的な対話ができるようになる。意見の対立があっても、「あの人はこういう価値観だから」という理解があれば、建設的な議論が可能になる。


結語

チームビルディングの核心は、価値観の共有にある。

ただし、「共有」とは全員が同じ価値観を持つことではない。互いの価値観を深く理解し、尊重し合うことである。

その対話の中で、価値観は無意識に影響し合い、撹拌され、統合されていく。波紋が重なり合い、まったく新しい形が生まれる。

それが、組織アイデンティティである。

あなたのチームでは、価値観について語り合ったことがあるだろうか。もしまだなら、そこには、想像もできなかった可能性が眠っている。


参考文献

  • Catmull, E., & Wallace, A. (2014). Creativity, Inc.: Overcoming the unseen forces that stand in the way of true inspiration. Random House.
  • Schwartz, S. H. (2012). An overview of the Schwartz theory of basic values. Online Readings in Psychology and Culture, 2(1).